ここではパラグアイの教育事情を中心に、パラグアイの子どもたちの置かれている状況についてご紹介します。
目次
パラグアイの教育事情
パラグアイの小学校は、2月下旬に新学期がスタートし、11月下旬に終了します。年間の授業日数は、200日程度です。また、授業は午前と午後の二部制で、授業時間は1日4時間であるため、パラグアイは世界で一番教育時間の短い国といわれています。
35年間(1954~1989)続いた独裁政権時代、アルフレド・ストロエスネル大統領は、農民の政治への気付きに恐れ、故意にインフラの整備を行わずテラロッサといわれる赤土道を残しました(稲森 2000;藤掛 2003)。その結果、今日においても降雨後の村は陸の孤島となり、学校は休みとなります。それ以外にも、教員のストライキやサッカーの国際試合などがある日は授業が行われません。
ちなみに、2010年のワールドカップにおいて日本とパラグアイがベスト8をかけて対戦した際も、フェルナンド・ルゴ大統領が試合日を祝日扱いとしました。
農村の子どもたち
パラグアイでは、農村部での貧困率が高くなっています。農村には、貧困により学校に行けない子どもたちが多く存在します。ILOの調査によると7人に1人の子どもたちが学校に通っていないとされています(ABC Degital 2007)。
男児は農業の労働力として、女児は家事労働を担う存在として扱われ、就学に意味を見出さない親も存在します。また、若年妊娠や幼い妹や弟の面倒を見るために学校を中断せざるをえない女児も多く存在します。
農村で子どもたちの就く仕事
農村の子どもたちは、様々な仕事に従事しています。家族農業の手伝いもあれば、賃金労働者として畑で働くこともあります。また、なかにはブラジルとアルゼンチンにつながる国際交差点といわれる十字路で靴磨きをしたり、新聞売りをしたりする子たちもいます。
女児の場合は、家政婦として働くことも多く、雇い主から性的被害を受け、妊娠することも多いです。
本基金理事長の藤掛が調査を行ったS村でも、13歳で家政婦として首都アスンシオンに出稼ぎに行き、雇い主にレイプされ、妊娠してしまい、村へ戻ると村社会から排除され、家族で村を出ていかざるを得なくなってしまった例が複数ありました。
自己を経験なカソリックの信者と規定する村人たちは、妊娠は神の決めることであると考える傾向が強いです。また、中絶は刑法にふれるため、多くの女児が望まない妊娠をした場合でも出産し、シングルマザーとなっています。

児童労働規制を進めるために必要なこと
国際労働機関(ILO)は、パラグアイ政府に対し児童労働に関する勧告を行い、2010年3月以降、児童を雇用してはいけないという通告を出しました。その結果、農園経営者は、子どもの労働に依存できなくなり、経営が悪化し、多国籍企業へ吸収されはじめます。また、学校に行きたい、あるいは家族を助けたいという思いを持った農園で働く子どもたちが、賃金労働から排除されるようになりました。
パラグアイでは、働かないと食べていけない、学校に行くことができない子どもが農村にも都市にも多く存在します。安易に児童労働を禁止することで、貧困層の子どもたちが生きるために窃盗や殺人を犯したり、児童買春に巻き込まれたりするなどのより大きな問題へと発展してしまう可能性もあります。
児童労働の規制を進めるためには、同時進行で、あるいはそれ以前に貧困層の子どもたちを支援できるような国際支援や国の教育予算の再配(貧困層の成人教育の推進なども含む)が必要です。
私たちにできること
世界中の子どもたちが義務教育を修了するために、まず私たちがやらなければならないことは、働く子どもたちが置かれている状況を正しく知ることです。
発展途上国の貧困問題には、日本を含めた先進国の消費の問題などが密接に関わっていることが多いです。私たちは、働く子どもたちが置かれている状況と自らの消費活動のつながりを認識し、一人ひとりが自分の消費活動を見つめなおす必要があります。
藤掛洋子(2003)「パラグアイ農村女性の性と生殖に関する意識とその変化-農村女性の家族計画の「語り」と「実践」を手掛かりに(1994年-2001年)、根村直美編著、『健康・ジェンダー・セクシュアリティ』明石書店、pp.85-115。