パラグアイの子どもたち
*本論は、藤掛洋子(2011)「世界の子ども事情:パラグアイの子どもたち」、『教育』、教育科学研究会。より引用しております。

■はじめに
本稿では、南米パラグアイ共和国(以下、パラグアイ 人口622万人)の農村の事例を紹介しながら子どもが働くことについて考えてみたい。ILO(国際労働機関)は児童労働を、「原則15歳未満の子どもが、大人のように働く労働」としている。しかし、途上国の場合、ILO138号条約が定める就業最低年齢は、原則義務教育修了年齢を下回らない年齢であり、14歳とすることができ、軽易な労働の場合は12歳とすることできる。また、この児童労働の定義は、「子どもたちの健全な成長を妨げる労働をさし、家や田畑での手伝い、小遣い稼ぎのアルバイトなどは含まれない」、としている。ILO182号条約では、18歳以下の子どもが行う最悪な形態の労働に、買春・ポルノ、麻薬の製造・密売などの不正な活動他をあげている。

■パラグアイの教育事情
パラグアイの一人当たりGNIは、2180ドル(2008年)であり、宗教は主にカトリックである。パラグアイの貧困率は、30%から50%といわれる。教育環境は悪く、教師の質や教育時間の短さが一番に上げられる。小学校は、2月下旬に新学期がスタートし、11月下旬で終了するため、子どもたちは年間約200日程度しか学校に行かない。また、授業は、午前と午後の二部制であり、1日4時間であるため、総計の学習時間は年間約700時間程度である。パラグアイが世界で一番教育時間の短い国といわれる所以である。
35年間続いた独裁政権時代、アルフレド・ストロエスネル大統領は、農民の政治への気付きに恐れ、テラロッサといわれる赤土道を残してきた(藤掛 2003)。その結果、今日においても降雨後の村は陸の孤島となり、学校が休みとなる。それ以外にも、教員のストライキやサッカーの国際試合などがある日は授業が行われない。2010年のワールドカップにおいて日本とパラグアイがベスト8をかけて対戦した際も、フェルナンド・ルゴ大統領が試合日を祝日扱いとした。

農村の子どもたち
学校はあっても貧困で学校に行けない子どもたちが農村には多い。ILOの調査によると7人に1人の子どもたちが学校に通っていない(ABC Degital 2007)。男児は農業の労働力として、女児は家事労働を担う存在として扱われ、就学に意味を見出さない親も存在する。また、若年妊娠や幼い妹や弟の面倒を見るために学校を中断する女児の例も後を絶たない。
農村の子どもたちは、実に様々な仕事をしている。家族農業の手伝いもあれば、賃金労働者として畑で働くこともある。また、インフォーマル労働者として、ブラジルとアルゼンチンにつながる国際交差点といわれる十字路で靴磨きをしたり、新聞売りをしたりすることもある。女児の場合は、家政婦として働くことも多く、雇い主から性的被害を受け、妊娠することも多い。筆者の調査村S村でも、13歳で家政婦として首都アスンシオンに出稼ぎに行き、雇い主にレイプされ、妊娠してしまい、村へ戻ると村社会から排除され、家族で村を出ていかざるを得なくなってしまった例が複数ある。自己を経験なカソリックの信者と規定する村人たちは、妊娠は神の決めることであると考える傾向が強い。また、中絶は刑法にふれるため、多くの女児が望まない妊娠をした場合でも出産し、シングルマザーとなる。

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■農園で働く子どもたち
 写真の子どもたちは、午前中は小学校に通い、午後は農園で農作業をしている。年齢を尋ねると、15歳と答えたが、実年齢はそれよりも数歳下であった。子どもたち自らが農園に出向き、農園主に仕事を乞うたのだという。農園主は、経済危機の中で困難な経営を強いられているため、子どもたちには最低賃金の半分を支払うことで経営が助かっているという。パラグアイのような発展途上国では、政府の補助員制度なども整っていないため、農園主は子どもの労働に依存している部分も多い。同時に、兄弟姉妹が多い農村の子どもたちは、貧困であるが故に、あるいは教育は不要と考える親や親族がいるが故に、自らが働かないと義務教育へのアクセスすら困難であることをよく理解している。
ILOの児童労働規制の狭間で
ILOはパラグアイ政府に対し児童労働に関する勧告を行い、2010年3月以降、児童を雇用してはいけないという通告を出しはじめた。結果、農園経営者は、子どもの労働に依存できなくなり、経営が悪化し、多国籍企業へ吸収されはじめた。また、児童労働は禁止であるというおふれにより、学校に行きたい、あるいは家族を助けたいという思いを持った農園で働く子どもたちが、賃金労働から排除されるようになってきた。
冒頭で紹介したように、ILOの児童労働の定義には、小遣い稼ぎのアルバイトなどは含まれていない。パラグアイでは、働かないと食べていけない、学校に行くことができない子どもが農村にも都市にも多い。ILOの児童労働の規制を進めるためには、同時進行で、あるいはそれ以前に貧困層の子どもたちを支援できるような国際支援や国の教育予算の再配(貧困層への成人教育の推進なども含む)が必要である。また、そもそも発展途上国の貧困問題には、先進国の消費の問題などが密接に関わっていることを私たちは再確認し、行動を起こす必要がある。バンドエイドのように安易に児童労働を禁止することにより、貧困層の子どもたちが生きるために窃盗や殺人を犯したり、児童買春に巻き込まれたりするなどのより大きな問題へと発展してしまう可能性を認識すべきである。世界中の子どもたちが義務教育を修了するために私たちがやらなければならないことは、まず、働く子どもたちが置かれている状況を正しく知ることであると考える。

<引用・参考文献>
藤掛洋子(2003)「パラグアイ農村女性の性と生殖に関する意識とその変化-農村女性の家族計画の「語り」と「実践」を手掛かりに(1994年-2001年)、根村直美編著、『健康・ジェンダー・セクシュアリティ』明石書店、pp.85-115。